今回のUCHIBORI MAGAZINEは、内堀醸造の看板商品の一つでもある「臨醐山黒酢(りんこさんくろす)」に関するお話。といっても、お届けするのは毎年恒例の新入社員研修の様子です。新入社員研修と臨醐山黒酢に、いったいどんな関係があるのか――ぜひご覧ください。
伝統の新入社員研修。大仙寺で行う座禅と説法
雨の降りしきる4月半ば、今年の新入社員6名と共に訪れたのは、内堀醸造本社工場からも近い岐阜県八百津町の「大仙寺」。ここは創業家代々の菩提寺でもある、臨済宗のお寺です。こちらの境内で毎年行われる座禅体験と説法は、内堀醸造恒例の新入社員研修。ご住職の話に耳を傾け座禅を組む――こうした実践を通して、新入社員は内堀醸造の一員としての、心の持ちようを体得します。
やや緊張の面持ちで本堂に通された新入社員一行。まずはご住職より「禅とは何か?」という問いかけがありました。
「心を無にすること」、「自分と向き合うこと」等、新入社員からは様々な回答が。ご住職曰く、これらはどれも正解。こうした問答を踏まえて教えていただいたのは「自他一如(じたいちにょ)」という言葉です。自他一如とは「相手も自分も一緒である」、「自分も他人も本質的に区別がない一つのものである」という意を持つ仏教用語。名前、年齢、性別、好みといった自我を全て捨てて自身と向き合うこと、その上で本当の自分を見つけることが仏教の「修行」――禅はまさに修行の基本であるといえるのです。
ここからは、いよいよ座禅の時間。始める前にご住職より「調身・調息・調心」という3つの心得を伺い座禅の姿勢に入りました。
顎を引き背筋を伸ばして姿勢を正したら、目は半眼に。呼吸の出入りに意識を集中して自分と対峙します。
しばし静寂に包まれる本堂。外の雨音だけが心地よく耳に響きます。
しばらしくて鐘の合図で座禅の終了が告げられると、皆どこか清々しい表情。内なる自分と向き合う一方で、外部の音に耳を傾け自然と一体となる。そんな充足感のある時間に、「雨の音がいつもよりはっきり聞こえた」、「何も考えない無の時間があった」、「座禅していた時間があっという間だった」等といった感想が聞かれました。
座禅の後はみんなで庫裡に移動してお茶の時間。自分で点てたお抹茶とお菓子をいただきます。
ちなみに茶道のような日本古来の「おもてなし」もまた、先程学んだ自他の向き合い方に基づく精神だそう。茶道に限らず「剣道」、「柔道」、「華道」といったあらゆる道は、全て他者ありきで成り立つもの。察し、思いやり、その上に成り立つ人と人との関係性…。自己を見つめる中で、社会人としてだけでなく人としての在り方も考えさせられる、貴重な機会になりました。
大仙寺と臨醐山黒酢の関係
さて、最初にお伝えした通り、臨醐山黒酢と深い関わりのある大仙寺。それは大仙寺の山号「臨滹山(りんこさん)」に注目すれば察しが付くかもしれません。山号とは寺号とは別に付けられるお寺の称号のことで、禅宗と共に中国から伝わった制度。大仙寺では八百津に流れる木曽川を中国の「滹沱河(ごだがわ)」になぞらえ、1501(文亀元)年「臨滹山・大仙寺」と名付けられました。
「内堀醸造3代目の内堀信吾さんは大変博識な方。当山のこうしたいわれから、ぜひお酢に『臨滹山』の名を使いたいというお話を先代にいただいたんです」と、ご住職。先代ご住職も地域に根差した酢造りをしたいという3代目の情熱を汲み取って、臨滹山の名を使うことを快く承諾。ただ、そのまま冠するのはおこがましいという3代目の想いもあって、「滹」の字を「醐」に変えて「臨醐山黒酢」と命名しました。ちなみに「醐」は「醍醐」という熟語として使われる漢字で、バターやチーズのような乳製品を意味する言葉。転じて「醍醐」は仏教の「五味」で最も優れた味とされており、「臨醐山黒酢」には“比類なき美味しさのお酢”というニュアンスも含まれています。
「地元である八百津という風土を大切にして酢造りをしたい」、「最高に美味しいお酢を皆さまにお届けしたい」――「臨醐山黒酢」にこめられているのは、そんな内堀醸造の核となる想いなのです。
内堀醸造、はじまりの地へ
内堀醸造のルーツといえば、もう一つ忘れてはならないのが「内堀醸造創業地」です。大仙寺を後に、本日の研修の仕上げとして古いまちなみの一角にある「本宅」に立ち寄りました。
1876(明治9)年に創業した内堀醸造は、かつては家族経営の小さな商店。少しずつ生産量が増えていき1979(昭和54)年に現在の本社工場に移るまで、八百津町の本町通りにあるこの本宅にて酢造りを行っていました。常に革新的な姿勢で未来を見据えた酢造りを行ってきた内堀醸造にとって、ここはその発祥を伝える唯一の場所。艶やかな飴色が美しい柱や天井が示す時の流れは、内堀醸造の長きにわたる歴史を今に伝えています。
「臨醐山黒酢の由来」と「酢造りの始まり」という、内堀醸造の源流を辿った新入社員研修。そのルーツでもある二つの場所で、今年も当社の根幹にある酢造りの精神をしっかりと伝えることができました。変わらない創業時の理念と情熱を新たな世代へと継承していくことも、内堀醸造が大切にしていることの一つです。
取材日:2026年4月15日
(Edit &Text:Yoshiko Sakata Photo : Hiroyuki Nakaji)